スペシャルインタビュー|Yutaka Nojima ―

media
YUTAKA NOJIMA(野島佑隆)さんは、1995年生まれのアーティスト。
東京での個展に加え、台北・台中での海外個展も開催し、活動の舞台を着実に広げてきました。

崩れたチーズや、綺麗に咲く花、しおれた花、ギターや風船、選挙ポスターまで——。
ユーモアを帯びた日常のモチーフに、喜びや寂しさをそっと別の光で照らし出します。

その作品は、どこか遠くの物語のようでありながら、どんな人の心にも触れる親しさを持っています。世代を超えて人々の記憶に残るのは、そんな“心の余白に寄り添うような”彼の表現があるからかもしれません。


今回はスペシャルインタビューとして、YUTAKA NOJIMA(野島佑隆)さんのアトリエにお邪魔し、作品づくりの背景や、創作の源についてたくさんお話を聞かせていただきました。
Profile

作品の購入希望やオーダーはインスタグラムからDMかメールでお問い合わせください。
Instagram:@yutaka.nojima

台中 個展 2025年

アトリエに入ってすぐ、印象的なピンクのギターが目に入りました。
野島さんは普段、ギターを弾かれるんですか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

ギター弾きますね。唯一の趣味なんで。あとは絵の具が乾くまで弾いたりします。
今描いてる絵はこんな感じかなぁって想いながらポロんと弾いてたりします。
ギターを弾く時間は頭の中の整理にもなります。

描くことが生活の一部になっているように感じました。
制作のとき、自然と決まっている習慣のようなものはありますか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

掃除、コーヒーを飲むことぐらいです。特にこれといったルーティンではないんですけど、毎日、一日中ずっと描いてます。
だから忙しくても、気分転換として“友達と遊ぶ日を入れたり、予定を入れたり、誘いは断らないようにして、無理やり休む!” みたいな。没頭し過ぎて疲れて体調を崩すことがあったので、バランスを取るためのコツみたいなものです。

100号作品の作業風景

野島さんのインスタに登場している茶色の猫さん、今日はいないんですか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

猫は実家にいます。足の長いマンチカンで。(笑)
名前はpeaceっていって、作品にも登場してます。
動物は他にも鳥とか、ハトとか、犬やネズミ、あとは金魚とかも登場しますね。全部に名前が付いてるわけじゃないですよ。絵の世界観は学生の頃から通っていたレコード屋で見たレコードのデザインからのインスピレーションです。

愛猫:peaceちゃん

作品づくりの上で大切にしていることはありますか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

絵を描く際に大切にしていることは、どんなに強いメッセージを描いたとしても、こども部屋に飾れるようなポップな世界で、こどもが大人になっていくにつれて、意味をキャッチしてくれるような絵です。

「COME TOGETHER!! 2023年 S100号」
「BREAKFAST IS PEACE PIECE 2023年 S100号」

イラストやイベントのコラボ企画など、様々な場面で活躍されている印象があります。お仕事のご依頼は、普段どのようにいただくことが多いのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

絵のキャリアについては、コロナ真っ只中の2020年ですかね。
目白にある古着屋さんに行って、「絵をかいてるんですけど」って、自分で持ち込みました。
その古着屋さんのオーナーが、僕がずっとファンだった古市コータローさんっていうギタリストで。お店にいた店長さんが、じゃあ「今グッズ作りたいと思ってたところだから、ちょっと作ってください」みたいに言われて、作らせてもらって。
そこから3年くらいずっと作らせてもらってました。それが絵の仕事をいただいた最初のきっかけですね。学校を卒業してから5年?くらい経ってたかな。
本当に有り難かったです。そのお店があった街に今はアトリエを構えることができて、自分にとっては大切なルーツである場所です。

DUST AND ROCKSと制作した
Tシャツとパーカー(2022年)

野島さんの作品には“シェルター”みたいなのがよく登場しますよね。
マンホールから下に続くハシゴが付いていて。どこに繋がってるんだろうって毎回ワクワクして見てるんです。

GAROU STAFF
GAROU STAFF

“シェルター”??描いてましたっけ??本当に?…あ、確かに。
それを描くのはクセですね。自分の想像の街ですが、シェルターがあると見る方々が色んな想像ができると思うので。危機感のある街なのか、地下街が広がっているワクワクする街なのか、答えはお任せしています。

“街そのものを想像させる描き方”は、他の作品でもよく登場していますよね。
例えば、この『OTHER MUSIC』と書かれた作品も、その延長にあるのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

これは実際にニューヨークにあった、オノヨーコさんとか坂本龍一さんと縁のあった「OTHER MUSIC」っていうレコード屋さんのドキュメンタリー映画があるんですけど。そのお店を題材にしたドキュメンタリー映画があって、「レコード好きな人に描いて欲しい」みたいなことで話が来たんです。好きな音楽を通じて、絵でお仕事できるのは本当に嬉しい出来事です。

映画が公開されたのが2020年で、その時に最初のお仕事をさせてもらって。そして今年(2025年)、日本でブルーレイが発売されるタイミングで、新しいデザインを担当しました。Tシャツやトートバッグなどのデザインになっています。

「サニーデイ・サービス」と
「アザー・ミュージック」の仕事で作ったもの

音楽の世界とのご縁が、とても自然に広がっていったように感じました。
その後も、さまざまな出会いや広がりがあったのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

そうですね。
コロナ禍の2021年に、古着屋さんの店長さんから
「持ち込んでみたら?」と背中を押されたのがきっかけで、
10代の頃から大好きなバンド「サニーデイ・サービス」の曽我部恵一さんが営む、
下北沢のレコード店(2階)に作品を持ち込みに行ったんです。

でもその日は曽我部さんが不在で、資料だけ預けて帰るつもりだったんですが─
「せっかくだし、なけなしのお金でカレー食べよう」と思って1階のカレー店に寄ったら、カウンター席に曽我部さんご本人がいて。
声と雰囲気ですぐに気づいて、その場で直接資料をお渡ししたんです。

そんな出来事があったんですね…!
カレー屋さんに寄られたことが、ご縁につながったのが素敵です。
そのあと、どんな広がりがあったのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

そうなんですよ。
そこから約1年後ぐらいに曽我部さんからお仕事の依頼をいただいて、
映画『アザー・ミュージック』の公開時には「僕もコメント出したよ」と声をかけてもらったり。ブルーレイの発売イベントではDJも快く引き受けてくれていて…本当にご縁に救われました。何より駆け出しで経歴も少なかった自分に依頼することは、とても勇気のいることだと思いますし、きっかけを与えてくれる大人にいつかはなりたいとも思いました。そんなご縁の積み重ねで生きてこれたと思っています。

僕が絵の中に風船を描くようになったのはサニーデイ・サービスの「風船讃歌」という歌がきっかけになってます。しおれても、破裂してしまっても、また膨らんで、空に飛んでって、、、みたいな勝手な解釈で描いてますが、、、笑

あ、そういえば…野球のバットやボールにも描かれていましたよね?
とても可愛いデザインで、つい見入ってしまいました。

GAROU STAFF
GAROU STAFF

竹内裕二さんというフォトグラファーの方が関わっていて。
普段は芸能人や女性誌を中心に撮影されている方なんですけど、
たぶん皆さん雑誌の表紙などで写真を見たことあると思います。

僕が表参道で展示していたとき、ちょうど近くで竹内さんも個展をされていたんです。
お昼休憩にふらっと見に行って、「写真いいなぁ」と眺めていたら、たまたまご本人がいらして。
その頃の僕なんて、本当にまだ全然ペーペーだったんですけど、
作品をすごく気に入ってくださって。
そこからずっといろいろ助けてくれている、本当に恩人なんです。

MARKAWAREのキャップ。
竹内裕二さんの写真と写真集。

…あ、そうそう。バットとボールの話でしたよね(笑)。

あれは竹内さんと、ファッションブランド・MARKAWARE(マーカウェア)が中目黒でコラボイベントをされたときに依頼をいただいたもので、
「野球が好きだから描いてほしい」とオーダーをいただきました。
バットやボールのほか、ホームベースにも描いています。

竹内さんとMARKAWAREと作った作品
2026年2月の竹内さん主催のイベントで発売予定
そうなんですね。野島さんのお話を聞いていると、
いろんなご縁が自然につながってお仕事になっている印象があります。
GAROU STAFF
GAROU STAFF

そうですね。本当にありがたいです。竹内さんの写真を使ったTシャツやMARKAWAREはよく着てますし、写真やポスターはアトリエに飾っていて、大切な宝物です。

大切にしている
真護さんの絵とサインが書いてある本。
このお花の絵は着ていたTシャツの絵を
描いてくれたもの。
長坂真護さんの作品は、私も作品集で拝見したことがあります。
強いエネルギーが感じられる、とても印象的な表現ですよね。
GAROU STAFF
GAROU STAFF

真護さんは、僕がまだ全然ぺーぺーで、絵もまったく売れなかった頃に、一番最初に見出してくれた人なんです。
個展も、ずっと長坂さんが持っているギャラリーでやらせてもらっていて。
もしあのとき出会っていなかったら、たぶん僕は画家というより、イラストレーターの道をまっすぐ進んでいたと思います。自分の進むべき道を示してくれたのが真護さんでした。

長坂さんとの出会いが、野島さんのその後の道を大きく変えたように感じました。その出会いは、どのようなきっかけから始まったのでしょうか?
GAROU STAFF
GAROU STAFF

僕が展示していたときに、真護さんが本当にふらっと通りがかってくださって。 その場で作品を見て、声をかけてくださったんです。
あれがなかったら、きっと今の自分はいません。今でもたまにお会いして、色んな話をするのですが、その度に自分の中のエンジンがかかっていきます。アトリエの玄関で育てているオリーブの木は真護さんが描いたオリーブの絵が好きだからです。画集から切り抜いて壁に貼ってます。早く恩返しできるように頑張りたいと思える大切な存在です。恩人です。

お話を伺っていると、野島さんの作品が持つ“奥行き”のようなものが、よりいっそう伝わってきます。
その一枚一枚には、“ひと目で惹きつけられる力”があると感じました。
GAROU STAFF
GAROU STAFF

ありがとうございます。そう言っていただけるのが、本当に嬉しいです。

あ、これ絵本ですか?『PARCHED』って書いてある。
とても可愛いですね。文章も…もしかして野島さんが書かれてる?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

そうなんですよ。これは知り合いの本屋さんと一緒に作ったものです。
今は一部の小学校や中学校の図書室にも置いてもらっていて。台湾で個展したつながりで、香港の学校にも置いてくださったりしてます。

高校生の頃の担任だった方が個展に来てくださって、気に入って自身の学校に置いてくれて、学校に行くの苦手な子でも、「教室は無理だけど、図書室なら通えるから」って言ってました。
だから、そういう気持ちの子の目にも触れてほしいし、もし読んでもらえたらいいな、という気持ちはあります。


僕は音楽に感化されたようなところがありますが、そのようなきっかけは何でもよくて、その一端を担うのが絵本だったりアートだったらいいなと思います。僕自身も学校との折り合いがつかなかった時期もありましたし、大人や社会にうんざりだ!って思うことも多かった方です。

そんな時に好きな音楽の歌詞を読んでたら、世の中で起こっていることはそこまで変わっていないし、その中で同じフラストレーションを歌ってたりして、「それなら今ある自分の想いは間違ってないじゃん!」って思ったり。
でもそんな環境でも信じることができて本当の言葉をくれる人も沢山いました。運が良かったと言えばそうですが、30代に入った大人として、心を閉ざすことなく気軽にいようねって伝えたいなとも思います。大人になることを焦らず、腐らずにねって。無理に歩幅を合わせなくてもいいんじゃないのかなって。それを心から納得して思えるまでが苦しいかもしれないけれど、、、そう思うと僕には絵を描き続けて、この社会の中で大人としての役割を担うことしかできないですね。

モチーフそれぞれに意味をこめて複雑なことを描いていますが、絵の第一印象として「元気になる絵だね」って言ってもらえることが多くて、結局のところ最後に伝えたいことは、「笑顔でいれるように!」ってことかもしれません。

少し話は脱線しますが、ある方からの言葉で「親にもっと感謝の気持ちを伝えた方がいいよ」って言っていただけて、ズドーンと雷が落ちた感じで、、、。自分の今までを振り返ると親にも、近ければ近しい人ほど感謝の気持ちって薄かったなぁと思いました。それはよく言えば、脇目も振らず突っ走ってきたってことですが、これは本当に良くなかったと、、、。親子や家族の絵を描いているのに、これではダメだと。恥ずかしながら少し心に余裕ができた今だから感謝することができるようになったことかもしれません。どんなことに対しても葛藤や悩みがあっても感謝できるようになるまで成長しないとなと思いました。

これがなかなか難しいのですが、、、。たとえばですが、多感な頃に苦しかったり閉ざしていることがあったとしても、そのことに感謝できる日がいつか来ると。そこまで悩んで答えが出たら大丈夫!って絵本の中では伝えたかった気がしました。描いている時はそのようなことまでは考えてなかったですが。不思議なもので、自分で描いたことに何年か後に気づかされることもあるんだなぁと思いました。

幼少期・学生時代の写真と大切にしている手紙など

野島さんといえば、この「TO BIG CHEESE!!」のイメージがとても強いですよね。
まさに代名詞のような作品だと思うのですが、
この作品にはどんな思いが込められているのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

“BIG CHEESE”って、実はスラングで政治家とか富裕層、いわゆる権力者って意味なんです。昔はチーズってすごく高価で、一般市民が食べられるようなものじゃなくて。
権力の象徴として扱われていたから、そういう意味のスラングになったらしいんです。

この作品のチーズ、上から見るとピースマークの形にカットされているんですけど、
よく見るとかじられていたり、崩れていたりするんですね。

チーズの高さの違いは “領土の差” や “貧困の格差” を意味していて、
本当はきれいなピースマークのままあるべきなのに、
その形が壊されてしまっている。

じゃあ、誰がそれを崩しているのか。
それが “ビッグチーズ” と呼ばれる人たち、
時代の政治家や権力者なんじゃないか、というメッセージなんです。
飛び散っている小さなチーズこそ「PEACE PIECE=僕ら」だと。

「チーズを崩さないでくれ。
きれいなピースマークのままでいられるように。」
そんな思いが根っこにあります。

描いた当時は単発の作品のつもりだったんですが、
その頃の世界情勢とも重なっていて。
特に台湾で展示したときは、みんなすごく深く受け止めてくれて。
この作品を描いてよかったな、と心から思いましたね。これからも描き続けようと思えたモチーフは初めてだったかもしれません。一枚の絵に色んな意味を込めるスタイルから、チーズの絵は飛び出していった感じです。

「TO BIG CHEESE!! 2024 Acrylicpainting」

なるほど……。
チーズの形や高さにも、そんな背景が込められていたんですね。
ただのポップなモチーフじゃなくて、世界の状況や権力への視点まで
あんなふうにユーモアで描けるなんて、本当に野島さんらしいです。

台湾の方々が深く受け止めていた、というお話も印象的でした。
そういえば、台湾では百貨店で大きな展示もされていましたよね?
たしか昨年(2024年)だったと思うのですが、
あの企画はどのようにお話が届いたんですか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

2024年と2025年ですね。
台湾は向こうのディレクターさんから、インスタグラムだったかな、直接連絡をいただいたんです。
最初は「百貨店の2周年の広告イラストレーターとしてお願いしたい」というお仕事だったんですが、その打ち合わせの中で「ここで個展もやりませんか?」と声をかけていただいて。

そこからはもう、百貨店を丸ごとジャックしたような感じでした。
外のフラッグ、電光掲示板、店内装飾、広報誌、フィルムカメラなどのグッズ、そして百貨店2周年記念アプリ。
その全部を僕の絵でやらせてもらいました。

やっぱり一番楽しかったですし、規模で言えば自分の中でも台湾の展示が一番大きかったと思います。
台湾の方々のユーモアや感受性の高さが、日本とはまた異なる印象で、
それが僕の感覚ともすごく合っていて、「これだ!」って思えた体験でした。
またいつか台湾に行きたいなと願っています。

台北 NOKE 忠泰生活 デジタルサイネージ
台北 NOKE 忠泰生活 ショーウィンドウ

台湾での展示では、野島さんがデザインされたグッズがたくさん並んでいたと伺いました。

展示のお写真を拝見しただけでも、野島さんの作品がグッズという形になったときの楽しさや魅力が、とても伝わってきます。

日常の中で野島さんの作品を身近に感じたい方は、きっとたくさんいらっしゃるのではないかと思います。

現在、グッズは販売されていないのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

今後はネットで購入できるようにしたいと思っています。現状は作品の購入希望やオーダーがあれば、インスタグラムからDMかメールください。

台北での個展 NOKE 忠泰生活

このお写真にもありますが、スケートボードに描かれた作品も多いですよね。
野島さんご自身も、実際に乗られるんですか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

乗ってみたりしてましたが、指を怪我しちゃって。
絵、描けなくなっちゃったら困るので、今はもう乗ってないです。

アトリエ風景

スケートボードの作品では、絵の具意外にクーピーも使われていると伺いました。

GAROU STAFF
GAROU STAFF

クーピーを使ったのは新しい試みなんです。“子供が描いた絵”っていうテーマだったので、クーピーがいいかな。みたいな。そんな感じです。

たくさんの絵の具や道具が並んでいるのを見ると、
野島さんが普段どんなふうに描いているのか想像してしまいます。
普段「この色が好き」「つい手が伸びる」というような色はあったりしますか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

好きな色は…特にないです(笑)。服は白とか黒とか赤とか着ますけど、色として「これが好き」っていうのは特にないですね。沢山ありすぎて選べないです。

普段はアクリルで描くんですけど、このタッパーに入っているのが全部、自分が混色して作った絵の具なんです。白を混ぜたりして、チューブのままの色をそのまま使うことはほとんどないですね。

色を忘れちゃわないように、タッパーのフタにメモを書くんですけど…字が汚くてすっごい恥ずかしいんですけど(笑)。例えば、女神の絵に出てくる星空の色だから、“女神 空”とか。そんなふうに、自分がわかるように書いてます。

混色して作った色や画材

色づかいが本当に美しくて…。
その“色のセンス”は、学校で学ばれたことなのか、それとも別の経験から育ってきたものなのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

もちろん学校でも色や絵のこと、多くはデザインのことを教わりましたけど、僕の今のスタイルは全然そこから来てないです。
やっぱりレコードとか音楽から受けた影響が大きいと思います。
描いていくうちに少しずつ“こういう色がいいな”とか“この組み合わせ好きだな”っていう感覚が身についていった感じです。
でも、ここに来るまでは試行錯誤も相当ありましたけどね。メランコリックなこととか、センチメンタルなこととか、風刺的なことをそのままのカラー(雰囲気)で描くよりも、ポップで描こうとある時気がつきました。THE BEATLESをはじめとする好きな音楽はメロディがポップで明るくて、でも歌詞は鋭かったり、メッセージがいっぱいで、自分もそうしようと思いました。明るいこと、幸せなことを描きながらも、その反対を同時に描くことが自分の正直な気持ちなような気がします。二律背反というか。描く絵の大きな全体のテーマは「TRAGICOMEDY=悲喜劇」です。ロックンロールとかパンクが自分とってのテーマです。好きな音楽のように絵を描ければいいなと思います。

レコードや本:ご本人私物

色や形を含め、作品全体に“野島さんらしさ”が一貫して流れていることに、強く惹かれました。その世界観や作風は、どのようにして形づくられていったのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

いや、でもここまで来るの、めちゃくちゃ長かったですよ。これからも色んな試行錯誤の連続です。ほんとに大変でしたし、なんかずっと、もがいてる感じでしたね。どんなお仕事でもみんなそれぞれ大変だと思うので、、、。

現在の作風に辿り着くまでに、
今とは異なる表現に挑戦されていた時期もあったのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

そうですね。
もうなんか全部、捨てちゃいましたけど。もう違うなって。散々悩んで、もがいて、これからは自分じゃなくて誰かに向けて描こうと思ったかもしれません。幼馴染に会うと、あの時の佑隆はこんなこと言ってたよってたまに教えてくれますが、そんなこと言ってたのかぁと思います。子供の頃から自分を知ってくれていて、その時の気持ちを思い出させてくれる友人も大切です。

長い時間をかけて今の作風に辿り着かれたんですね…。
お話を伺って、野島さんが模索されてきた道のりや、
そこから“野島さんらしさ”が育まれていったことを、強く感じました。

当時の作品は今は残っていないとのことですが、
そこにどんな景色があったのか…。

きっと今へと繋がる何かが宿っていたのだなと想像すると、
その作品たちにもう一度、どこかで出会ってみたかったな、としみじみ思いました。
 

GAROU STAFF
GAROU STAFF
アトリエの冷蔵庫に貼ってある色見本や写真

私も目白を少し歩いてみたのですが、
落ち着いた雰囲気があって、とても品のある街だと感じました。

野島さんが、この場所をアトリエに選ばれたきっかけは、どんなところにあったのでしょうか?

GAROU STAFF
GAROU STAFF

ずっと、自分の作品を見てもらえる場所を探していたんです。
でも目白は全然候補に入ってなくて。どうせなら自分と繋がりのあった街がいいと思いました。幼馴染が目白があってるよって言ってくれて、お仕事した古着屋さんがあったし、いいかもと思ったら、とんとん拍子に見つかりました。
たまたま良い場所を見つけて、「ここだ」と思いました。

目白って、すごく柔らかい街なんですよね。
庭園や学習院があったり、静かだけど品がある。落ち着きます。
それに、教会が多いんです。

最近、日本で建築を見ようと思って、大きい教会に行ったんですが、
そこで宗教画に目がとまりました。
人の姿をしているけれど、
“今を生きている誰か”とは違う存在が描かれていて。

もともと“見守る存在って何だろう”と考えていたので、
環境や心境の変化の時だった自分の感覚とどこかリンクしたというか。
宗教画って、モチーフ一つひとつに意味があって、
烏滸がましいですが僕の絵の作り方とも、少し近い部分がある気がしました。偶然、西洋画の歴史も学んでいた頃でした。

目白で過ごしていると、
“人なんだけど人じゃない、でも確かにそこにいる存在”
そんなイメージが自然と浮かんでくるんですよね。


自分も物事を捉える視点の角度が変わってきた気もしますし、前よりも軽やかに、俯瞰で見れるようになったというか、そういう感覚が、これからの作品にも少しずつ、自然と加わっていくんじゃないかなと思っています。

——最近、“嬉しいな”とか“幸せだな”と感じた出来事はありましたか?
野島さんが、どんな瞬間に幸せを感じるのか、教えていただけたら嬉しいです。

GAROU STAFF
GAROU STAFF

以前購入していただいた僕の絵を、数週間前に見せていただく機会がありました。
自分の元を離れてから1年以上経っていました。キッチンで笑顔で失敗にもめげずにお料理している女の子の絵だったのですが、久々にその絵を見たら、描いていた頃よりも笑顔が増しているように感じられました。
購入してくださった方に愛されながら、沢山の人に見ていただいているように感じました。あぁこうやって巣立っていった作品の中のキャラクターも育っていくんだなぁと、、、絵を見た瞬間「あ!元気にやってる!」って思いがけず言葉が出て、自分でも驚くほど嬉しかったんだと思います。描いた絵がそれぞれの場所で愛されていることが、とても嬉しかったです。絵を描くことを仕事にしていて良かったと心から思いました。絵を購入してくれる方々のおかげで今の自分があります。絵を愛してくれることに感謝の気持ちでいっぱいです。

「SPICE UP YOUR LIFE 2022年 S100号」
アトリエ。日差しがお気に入り。
今回のインタビューを通して、
野島さんがこれまでの歩みや出会いをとても大切にされてきたことが、深く伝わってきました。

「この絵を見て、笑顔でいられるように。」という野島さんのシンプルな願いには、
これまで出会ってきた人たちや、支えてくれた方々から受け取ったあたたかな想い、
そして、そこから育まれた優しさが静かに息づいているように感じます。

アトリエでひと筆ずつ丁寧に描かれた作品が、
これからどんな日常に寄り添い、どんな笑顔と出会っていくのか――その未来がとても楽しみです。

GAROUは、これからもその歩みに、そっと寄り添っていきたいと思います。
記事URLをコピーしました